果敢な本気
                〜 砂漠の王と氷の后より

        *砂幻シュウ様 “蜻蛉”さんでご披露なさっておいでの、
         勘7・アラビアン妄想設定をお借りしました。
 


それでなくとも通年で灼熱の土地なその上に、
天文・暦の上での季節は、そろそろ夏の気配も濃くて。
見えるはずのない水場の幻影が
遥か彼方にゆらゆら煌く今の時期は、
真上天辺の頭上という高みから、
凶悪なまでの生気を発揮している太陽にさえ、
一縷も引けを取らない覇気もつ者こそが、
この広大な砂漠と人々を制覇していられるとも言えて。
陽のあるうちは濃い陰の下へと逃げ込んで、
砂色に焼けた肌、深色の髪を、
フードのように頭へ回した帆布のような麻布で遮り、
じっと動かずになるのも致し方ない。
そんな盛夏がいよいよやって来るのは、
なかなかに脅威な事態だが、

 『まま、その時期には雨季も来ますから。』

瑪瑙の宮の第二王妃が胸を張って語るには、
よその土地に比すればささやかな雨量だが、
一年分がまとめて降るのだ、
灼熱を冷ますには丁度いい打ち水ともなろうとのこと。
先達の知恵 生かし、
分厚い壁を刳り貫いたよな作り。
断熱効果も高いこしらえの、覇王様の居城には、
地下の水脈から組み上げた豊かな水
ふんだんにたたえての涼しい工夫も一杯で。
日よけ砂よけの紗を降ろした居室は、
広々と空間を取られた回廊や中庭を組み合わせることで、
外気が帯びていた熱を冷ましながら 風を通過させるため、
妃や王のおわす奥向きは、
この地域ではあり得ぬほど 明るいのに涼しいという、
それは贅沢な部屋となっている不思議さよ。

 「先達の知恵、
  遠方の地の知恵というものは有り難いものよなぁ。」

それらを拝借しているお陰様で、
それは過ごしやすい夏となっておるわいと、
丸ごと他人の知恵の世話に
なっているだけのような言い方をする御主だが。
なんの、そういう知恵があると知っている知識と、
実現させられるだけの技量を持つ身もまた、
そうそうあり得ぬ級の途轍もない素晴らしさ。
今の今を支えるだけでぎりぎりであるがため、
生身を震わす悦楽にしか関心が湧かぬ低俗でなく。
さながら、
おとぎ話を現実のものにしてしまえる、
奇跡の力さえ持つ、至上の覇者でおいでの君なれば…。



     ◇◇◇


外からお越しの存在には、
冬場だとて それは苛烈な陽の灼光に支配されたる
国であり地域と映るのかも知れないが。
なんのなんの、決してそんなことはなく。
例えば今時分だと、ずんと北の国の白夜には及ばぬまでも、
随分と遅くまで、沈んだはずの陽の残光がそこここに漂い続けてのこと。
夜の静寂が漆黒の天幕と共に訪のう前に、
時が止まったかのように閑と静かな宵のひととき、
しみじみと堪能できる刻がもて。

 「………。」

王宮の奥向き、夕映えも星空もどちらもいや映えよう、
つややかに磨き上げられた白亜の四阿(あずまや)にて。
より抜きの宝玉を連ねた金鎖を何連も、
めくれぬようにと押さえに提げて。
贓物より選び抜かれた更紗の紗を夜気除けに降ろし。
給仕にと傅(かしず)く女官らも遠ざけての
寵妃とまったりと過ごしておわした、晩餐のひととき…のはずが。

 「……これ、息ぐらいつかぬか。」
 「…………。//////」

低められた声がまとう豊かな響きは、
間近に聞けば 総身にやすやすと染み入っての、
これほど端的で、なのに威力ある睦言も他になく。

 「気を張っての冴えた面差しも、
  射るような眼差しも。
  確かに、それは得難い宝珠のようだの。」

斬りつけるよな冴えと鋭さ孕んだ蠱惑の眼光を、
文字通りの至近に見据えた覇王様の。
精悍な口許へ ふふと浮かんだ笑みの、
何とも男臭くて野趣に満ちていたことか。

 「これを間近に望める至福は
  そうそう誰もが堪能出来はしなかろうがな。」

 「…っ。///////」

例えとしては不遜非礼の極みかも知れないが、
それでも敢えてと例えれば。
雄々しくも俊敏で、
人の子では歯が立とうはずもなき野生の凶刃の持ち主、
野獣の喉奥から洩れいづる、
ぐるると恐ろしい唸りの響きに、最も似ているやも知れぬ。
危険極まりなくて、そのくせ聞かずにはいられない。
尻腰なき者には、響きだけで十分に威嚇となろう魔性の囁きなれど。

 「………。」

深紅の玻璃玉を対にしたよなそれ、
金の前髪の陰から炯々と光らせての睨ねつける姫には、
少なくとも萎縮はなく、

 「さようか、引く気はないのだな。」

猫脚と呼ばれる優美な曲線で支えられし寝椅子の上で、
聞くだけならば睦言の応酬に過ぎぬよなやりとりの、
だがだが、この現場を目の当たりにしたれば、
少なくとも衛士なら割って入っただろう、
切迫した攻防が繰り広げられており。

 「……く。」

果敢で攻撃的な、冴えた顔が、
真摯に美しくて気に入りと。
さんざん褒めつつ、甘やかしておいでの佳人の手から。
ゆっくりゆっくり 時をかけてのこと、
ようやっとからんと床へ落ちたは、
真鍮の火皿に灯された明かり受け、黄銀の光を呑んだ短剣。
嫋やかなその痩躯がどれほどの重しとなるものか、
それでも勇ましくも のしかかって来ていた
後宮にては“琥珀の宮”を授かりし、第三妃・キュウゾウの。
それは撓やかで麗しい手首を、
大きな手の内に収め、
締め上げることで物騒な得物から離させたカンベエであり。

 「……っ。」

意を果たせなんだことが口惜しいか、
切れ長の眸をぎゅうと眇めた苦衷の顔さえ、
それはそれは美しき姫だが、

 「その激しさも、なかなか収まらぬのだの。」

怒りの発露、怨嗟の刃。
略奪も同然の可虐を受けた国から、
そのような物騒な想いを抱え、
この国へ、覇王へと差し出された悲劇の王女。

 大陸平定に必要だった策のうち、そして、
 実は豊かな財と才もつ 炯の国の支えを盤石とするため、
 力でねじ伏せた格好に見せかけた条約の要め。

可憐に麗しき者、虐げて愉悦を覚える変態でもなし。
自身が築いた安寧の中にて、
愛でるに飽きぬだろうという、
実のところは、ただそれだけの存在であった筈だのにね。

 “こちらこそ、結構 翻弄されておるわの。”

炯国に於ける至上の宝石にして、最強の宝刀でもある
燦然と煌く瞳と気鋭もつ、紅蓮の姫君は。
そんな自身の立場なぞ知る由もなく、
ただただ奔放に、ただただ懸命に、
日々を過ごしているわけで。
怖いものなどないと胸を張り、
恣意にしたがい、
あくまで凛々しく振る舞う彼女であるのだが。
さりとて…日々 その身のうちへ
音もなく膨らみつつある思慕の情があるの、
さすがにそろそろ、気がついてもいるようで。
覇王様の稚気に圧されては、
含羞むことさえ口惜しいか、
美々しい口許、拗ねたよに たわめてしまわれる。


 一つ訊くが。

 ………。

 儂は、そこまで怒らせるようなことをしたかの?

 ………。////////

 指を舐めただけだったはずで、
 それが炯国では死に値する作法…とまで
 聞いた覚えはないのだが。

 ……………………最後の。/////

 ? おおっ、それは相すまぬ。

 〜〜〜〜〜。

 皿が空くほどに、肉の味も染み出して、
 汁にそれは繊細な風味が加算されておったというのだな。
 その最後の一舐めを、まんまと奪いおってと腹が立ったか。

 〜〜〜〜〜。///////

 同じ替わりとて思いつかぬが、
 せめて明日の晩餐には好きなものを用意させようぞ。
 肉でも菓子でも、何でもな。
 それで許せ。な?


  ……………。(頷)


子供のようなことで拗ねているのは重々承知。
むしろ、
そんな甘えを許してくれる、
懐ろの尋のとことん深い覇王であるのへ、
ますますのこと
甘えへの箍や枷も片端から外れゆくの、
止められない気さえする、キュウゾウ様であったそうであり。
そんな妃の、日に日に目覚ましゅうなる可愛げが、
覇王様にはこれまた、
胸元を幼き力でつねられるほど 愛しゅうてならぬとか。




  さあ、皆さん、
  お手持ちの座布団やクッションを ぶんと頭上まで。(笑)




     〜Fine〜  13.07.02.


  *直前のお話でも、
   覇王様に向かって剣を振り下ろしてるお妃だったりします。
   本当に和解したんか、あんたら。(う〜ん)


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